2012年06月12日
カウンターテニスの真実
私が俗に「カウンターテニス」と呼ばれる、ある意味特殊なテニススタイルを意識し始めたのは94年頃だった。その年の全仏で優勝し、翌年にはナンバー1にもなったスペインのアランチャ・サンチェス・ビカリオがやっていたのがカウンターテニスだったのである。あまりテクニックに長けた選手ではなかった彼女が、攻撃力ではるかに勝るグラフやピアースに勝てるのが不思議だった。そこで何度も試合を見ていくうちに気づいたのは、非常に巧妙かつ(言い方が悪いが)ネガティブなテニスだという事だ。
まず共通する特徴がいくつかある。1、コートカバーリングが広い。(ボールを切り返す技にかけては名人級)2、アグレッシブさを前面に出す。3、凡ミスをしない。4、ラリーが長くなる。5、辛抱強い=タフである(自分のゲームがブレイクされそうな時は相当な時間をかける)などだ。それぞれには当然狙いがあり、1は相手にわざときわどいコースにボールを打たせてミスをさせる為で、2はその巧妙さを隠すパフォーマンス、3はプレッシャーをかける上で、必ずボールをコート内に入れるのを徹底すること、4と5は相手の体力と試合を続ける気力を効果的に奪い、かつ対戦する事に脅威を与える(倒すのが難しいと思いこませる)のを意図としている。無論、最終的に勝つことが目的なのはなんら変わらないが、なんとも姑息なテニスに思えてしょうがない。パワーとスピードが売りの男子テニスで、こんなスタイルをマネする奴はまずいないだろうと思っていたら、1人だけいた。そう皆さんご存知のレイトン・ヒューイットだ。彼があの「カモーーン」をやるのは相手を挑発し、自分がやっているせこいテニスを悟られないためだ。それでも全米とウインブルドンに優勝したのだから、評価するべきだろう。
このプレイスタイルが個人的に気に入らないのは、テニス特有の爽快感が無いせいだ。対戦相手がこれをやられるとイライラするのが手に取るようにわかる。ナダル自身がカウンターテニスをやっている意識は全くないだろうが、特徴は一致している。いつも全仏で対戦し敗れたフェデラーが疲れ果てた顔をしていたのが印象的だった。
相手に常にプレッシャーをかけてナーバスにさせ、ミスを引き出しやすくするのがカウンターテニスの真の狙いだから、これにのってはいけない。なるべく長い打ち合いをさけ、サーブやリターン、アングルでシンプルにポイントを取る事だ。以前ジャパンオープンで優勝したイリ・ノバックが初めてヒューイットに勝った時、素晴らしいテニスをしていた。極力凡ミスを避け、手数を掛けずにリターンを確実にオープンコートに決める。要は自分のミスをケアしながら、堅実にプレーするのを意識したのだ。途中、スタジアムの雨漏りで中断した影響もあったが、試合後半ヒューイットはいつもはしないはずの凡ミスを連発し自滅した。カウンターにはカウンターで切り返すのが一番の攻略法だと自分では思っているのだが。
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