2012年08月02日
二人の世界
「錦織対フェレール」戦が行われていた同じ時に、ナンバー1コートでこれまで見た事もないような試合を見た。シャラポワがレシツキ相手に1セットダウンから逆転で勝ったのだが、その経過が異様としか言えないような内容だった。まず試合時間が2時間47分、その内訳は1セットが73分、2セットが49分、3セットが45分である。一番時間がかかった1セット目のタイブレークを逆転で失ったシャラポワが負ける(というか、諦める)のは容易に想像できた。他のプレイヤー同様、オリンピックという名のたかがエキシビションである。4大大会に比べればどうでもいいはずだ。しかし、彼女には負けられない理由があった。直近の同じウインブルドンで完敗したレシツキにリベンジする為である。それまでシャラポワに1度も勝てなかったレシツキは、対シャラポワ戦の具体的な戦術を用意していた。相手サーブ時にリターンのタイミングを早める、サーブを確実に入れる、どんなボールの揺さぶりでもとにかく返球するのを徹底する、シャラポワの強烈なウィナーをしゃがみ打ちで切り返すなど、多くの工夫が見られた。だから1セット目を取った時点で、今日の試合も勝利を確信しただろう。だが、シャラポワは諦めなかった。自分に対して自信満々で、負けるはずが無いと思ったレシツキへのプレイヤーとしての意地かも知れないが、誰もが困難だと思ったミッションにあえて挑んだ。レシツキの新戦術に苦しみながら、見ている方が言葉を失うほど(事実、2セット目からは観客もポイントが決まるごとに反応はするものの、大半はシーンとなってしまった。)この試合に勝つことに執着した理由が分からない。(すでに体力、メンタルともにギリギリの所で)もはやメダルやエキシビションだとか、明日の試合ことなど全く忘れてしまったように全力でプレイするシャラポワとレシツキには、プロテニスプレイヤーとしての本能がそうさせたとしか思えないほどの凄みを感じた。まるで「エースをねらえ」のお蝶婦人と岡ひろみの最終対決のような、二人だけにしか分からない世界感の試合が実際のコート上で展開されたのだ。このことに驚かないテニスファンはまずいないだろう。ものすごいものを見てしまった。きっと見た人の記憶に焼きついてしまいずっと離れない、いい意味でのトラウママッチなのは確かだ。
あれだけ凄まじい内容の試合にも関わらず、勝ったシャラポワはケロッとしていていつもと変わらない笑顔だった。もちろん負けたレシツキも、内心はものスゴーくがっかりだろうがすっきりとした表情をしていた。でも、こんなにストレンジで痺れる試合をテレビで放送しないなんて、この国のテレビは・・・。言いたいことはわかるだろう。そういう事だ。
コメント
この記事へのコメントはありません。